Farm to Table つくばについて 地産地消 美味しいつくば産 特集 編集部コラム

特別記事:Farm to Schoolつくば ~つくば市立九重小学校×ふしちゃんファーム 伏田直弘さん~

# スペシャリテ

11月30日は「つくば市民の日」です。毎年この時期には、市内学校給食でつくば市産の食材をふんだんに使用した特別な「つくば市民の日メニュー」が提供されています。また、それに合わせて各学校で生産者を招き食に関する授業も開催。今回は、九重小学校で行われた食育授業の様子と、生産者「ふしちゃんファーム」伏田さんのお話を紹介します。

九重小学校体育館で行われた食育授業の様子

【学校給食からも地産地消を推進】

Farm to Table つくばでは、これまでたくさんの地元生産者と地元素材をご紹介してきました。米に野菜、肉、果物……と幅広い食材が作られており、つくば市産の食材だけで食卓をいっぱいにすることができるほど。そんなバラエティに富んだつくば市産の食材は、市内の学校給食でも登場しています。つくば市では、「学校給食における地産地消推進ガイドライン」を策定しており、市内で生産・収穫された旬の食材を積極的に取り入れ地産地消を推進。子どもたちにとっては、自分たちの暮らす地域で作られている農作物を知る機会となり興味関心にも繋がっています。また、地産地消給食の提供とともに市内生産者をゲストティーチャーとして招いた授業も実施。農業への理解を深め、食育の面でも大いに学びのある取り組みです。
今回の特集では、2022年のつくば市民の日に合わせて11月24日に九重小学校で5年生を対象に実施された食育授業を取材させていただきました。ゲストティーチャーはつくば市手子生の有機野菜農家「ふしちゃんファーム」代表の伏田直弘さんです。まずは、吾妻小学校の宮本栄養教諭からふしちゃんファームについて簡単な紹介がありました。伏田さんはもともと茨城県から遠く離れた兵庫県の出身だそうですが、つくば市で農業を営んでいる理由について「比較的暖かくて雪が降らない」気候面のメリットと「研究機関が集まっているので最新技術を仕入れやすい」サイエンスシティならではのメリット、そして「大消費地である東京から近く、輸送コストや鮮度も保つことができ環境にやさしい」という立地面でのメリットを挙げていました。19歳の頃から有機農家を志し、全国各地様々な場所を見てまわったという伏田さん。「どこで作るか」を大事にしているともいい、そんな目線から見てつくばという場所に成功の可能性や発展性も見いだしたのです。そして伏田さんは鞄ひとつでつくばに移り住み、ゼロから農業をスタートして8年で大きな成功を収めています。

ふしちゃんファーム代表・伏田直弘さん。伏田さんのお話は子どもたちにも「面白い」と毎回好評なのだそう。

【市内生産者と学ぶ、農業と食の課題】

今回の授業は、日本農業の課題として二つのテーマについて伏田さんと一緒に考える内容です。まず一つ目のテーマは「農業で働く人が減っているのはなぜ?」。これについて伏田さんは、「農業は担い手が高齢化していて若者が少ない、儲からないというイメージがあるから人が入ってこない」と言います。ただ、農業の働き手が減っていることは決して悪いことではないとも話しました。というのも、今の農業は昔と比べて働き方が大きく変化しているからです。ふしちゃんファームでも、人力に変わって「スマホを使って農業している」といわゆるIoT技術を取り入れてスマート農業を実践していることを紹介。いつでもどこでも、今ここででも手元のスマートフォンひとつで約60棟のビニールハウスの温度や水分量などを管理できるのだと話す伏田さんに子どもたちは驚いた様子でした。そういった最新技術を取り入れることで農業で一番大変な作業部分をカットでき、その分空いた時間で打ち合わせや商品デザインなどの仕事を効率的に進められるのだと伏田さん。売り場で人目を惹くパッケージデザインや親しみあるキャラクターを活用したり、有機JAS認定という付加価値を付けたりするなど「買ってもらうための工夫」も重要な仕事です。
二つ目のテーマは「食料自給率を上げるためにどうしたらよいか?」。日本の食料自給率は約37%(※カロリーベース)、それに比べてアメリカは132%、フランス125%、ドイツが86%…と、日本の自給率は低く非常に多くの食料を外国からの輸入に頼っている状況です。では、食料自給率が低いとなぜ駄目なのか?もしも食料の輸入が出来なくなったら、日本は一体どうなるのでしょうか。伏田さんは、そんな状況に危機感を持っているといいます。ふしちゃんファームでは、ビニールハウスで環境を整え年間を通して安定して作物を出荷できるように取り組んでいます。また、化学肥料の原料の多くは海外からの輸入に頼っており、自分たちの身近な自然の肥料を活用して作る有機栽培は環境にも優しくより良い仕組みだと話しました。

ふしちゃんファームの有機野菜は「すっぴん」がキーワード。記憶に残りやすいネーミングと、キャラクターが印象的です。

【高品質・適正価格・安定供給できる有機農業】

授業の最後に、子どもたち自身が二つのテーマについて考えるグループワークが行われました。農業の働き手のテーマについては「農業の良いところをもっとPRする」、「仕事をロボット化する、例えばゲームで遊んでいるうちに野菜を育てられるようにする」といった意見が。食料自給率の課題については、「みんなが家庭菜園をはじめる」「いっそ輸入を全部やめてしまう」など、自由な視点から多様な意見があがりました。
農業や食について改めて学んだ子どもたちへ、伏田さんは最後にこう話しました。「食料自給率の低さも、人ごとじゃなく自分ごとに考えてほしい。みんなが大人になるまでは僕がどうにかする!けれど、そのあとのことはみんながどうにかしなきゃいけない。農業者が減っていることも、それ自体が問題なんじゃなく、しっかり勉強して農業をやる人が必要。ちゃんと勉強するとお金も稼げるようになる。だからみんなにも頑張って勉強してほしい」。伏田さんのメッセージに、子どもたちも真剣な眼差しで聞き入っていました。

授業のあとに、伏田さんにお話を伺いました。ふしちゃんファームでは、小松菜や水菜、イチゴなど7種の作物をすべて有機JAS規格に基づいて栽培しています。なぜ有機野菜かというと、授業でも話していたとおり「付加価値を付けるため」です。「ゼロから農業をはじめようとした時に、普通の野菜じゃ勝負出来ない。それが、有機JAS認定のシールを貼っただけでブランド化されて売れるようになる。それに、つくばは筑波山もあって自然も豊かで子育てにも力を入れているので、イメージ的にもオーガニックと相性がすごく良い。設備をしっかり揃えて、高品質のものを適正価格で安定供給すれば成功できると思いました」。そんな伏田さんの成功を裏付けるのがそれまでの経歴です。九州大学農学部・大学院で農業経営学を学んだ後、大手外食チェーンに就職し農業法人の立ち上げを経験。有機栽培について実地で学び、更には金融業界へ転職。それらの経験で得た知識と技術がふしちゃんファームを支えています。
伏田さんは今後の展望について「ゆくゆくは海外でも有機野菜の農場を立ち上げたいです」と話します。今の有機野菜市場は、まさしく売り手市場。需要に対して農家数が足りない状況ですが、今後はどんどん拡大していくことが見込まれています。それに先んじて伏田さんは有機栽培技術の研究を進めており、またJGAP・ASIAGAP(※)の認証も取得。海外を含む新たなマーケットも開拓中です。
つくばから世界に打って出る伏田さんの有機野菜は、つくば市内カスミやBLANDE、わくわく広場各店などで購入可能です。

オリジナルキャラクター「すっぴん菜ちゃん」と。九重小の子どもたちにも広く認知されており、地元での浸透度が伺えました。

※GAP…Good Agricultural Practice:農業生産工程管理
JGAPは日本の標準的な内容であり、ASIAGAPはこれに加え世界的な食品安全管理を行うGFSIから承認を受けた国際規格。ASIAGAP認証農場は茨城県内で15農場以下。

取材協力:
・つくば市立九重小学校
・ふしちゃんファーム
つくば市手子生2238
https://organic-fusichan.net/

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