紫峰・筑波山の麓に広がる、研究学園都市のつくば市。筑波山水系の豊かな水を使用した日本酒が古くから親しまれ、2017年の「つくばワイン・フルーツ酒特区」認定によってつくば産ワイン、2020年にはクラフトビールも誕生。名産品となる新たな地酒が続々と登場しています。丹精込めて造られた地酒の背景にあるのは、つくばの蔵元や醸造家が紡いできた歴史や熱い想い。ITも活用しながら、銘酒に秘められた一つひとつのストーリーを地域に届け、地酒文化の発展に貢献しています。
【ITを活用した接客】
つくば市谷田部の地で1936年に創業された老舗のスドウ酒店。温故知新の精神で地域の酒文化を創造し、市内の地酒や厳選した日本各地の酒を揃え、つくばを元気にする地酒専門店です。そんなスドウ酒店が研究学園地区に構える「美酒堂 研究学園店」でお話を伺いました。
取り扱う酒類は焼酎、ウイスキー、ワインなど約2000種類で、その内の半分は日本酒となり、蔵元直送も多数。全国の蔵元を見学し、原料、技術、社長や杜氏の方針や心意気を共感した上で、将来性も考慮した逸品を厳選しています。
地酒にこだわる理由について、3代目の須藤利明さんはこう語ります。「酒米の代表格である山田錦を使えば美味しい酒になるのは当たり前ですし、酒造りは全て機械でも出来てしまう。でもあえて地元の人が地元の米、水を使って、地酒を育てるのが本来の姿。地元住民の嗜好に合わせた地元志向の酒でなければ、本当の個性は出ない。人の手が入らなければ辿り着けない領域に達しているこだわりの地酒を応援したいですし、その可能性や価値を上げていきたいのです」。
全国的に見ると、50万人規模の都市にある地酒専門店は通常1、2店舗。しかしスドウ酒店は「美酒堂」含め市内のショッピングモールや幹線道路沿いに4店舗も展開しています。膨大な知識と経験が必要な地酒専門店の飛躍を支えるのは酒とユーザーに寄り添う接客術です。
須藤さんは全国各地の品質にこだわる酒蔵を自ら訪ね歩き、その舌を唸らせた逸品をセレクト。酒の特徴や飲み方などを地域の人々に直接伝えながら販売するスタイルをいち早く実践してきました。
そんな接客を強化するツールが、タブレット端末。須藤さんやベテランスタッフが、これまで得た酒に関する情報をデータベース化し、新人でもお客の好みの一本をセレクトできる独自のシステムです。これは「平成27年度茨城県サービス産業生産性・付加価値向上促進事業」のモデル事業として産官学で共同開発された、茨城県内の酒販売業界初となるIT技術。須藤さんは大学時代、エンジニアを目指していた経歴があり、SEとしても参画しています。
そんなITに強い酒販店ですが、他県のマニアに向けたネット販売は一切していません。なぜなら、高品質で美味しい酒は、必ず物語があるもの。それらを深掘りし、対面によって届けることで、地酒がある日常を地域に根付かせたいと考えているからです。
「当社は各店舗に経験豊富なスタッフやワインアドバイザーも多数在籍しておりますが、人材育成で重視しているのはコミュニケーションの部分。知識に偏重せず、お客様のバックボーンを意識しながら要望を汲み取って困り事を解決することや、お客様に喜んで貰いたいという想いを大事にしようと徹底させています」
そんな美酒堂は2016年いばらき経営革新優秀賞、2019年めぶきビジネスアワード奨励賞などのビジネス賞も獲得。一企業としても県内で注目を集める存在となっています。
【ニーズに合わせた高品質の地酒】
つくばは様々な国の研究・教育機関の拠点で、日本の頭脳が集結している地域。転勤者が多いため、人口の転入出が多い街で、地酒にとって「恵まれた市場」なのだそうです。
「例えば、アサヒスーパードライが全盛期の頃、通好みのエビスビールが日本で一番売れていたのがつくば。元々、こだわりの酒が好まれる地域なのです。国内外で活躍する研究者やビジネスマン、大学生が多く、他県とのつながりがあり、しかも引っ越した後もつくばに度々遊びに来てくれる。そのため、様々なシーンで地酒の需要があるのです」。
また、古くから筑波山水系の良質な硬水を用いた酒造りが脈々と受け継がれ、現在は2つの蔵元が精力的に醸造を続けています。茨城の地酒を醸すスペシャリスト「常陸杜氏」や女性杜氏がいる稲葉酒造(つくば市沼田)は、筑波山神社の御神酒としても有名な主銘柄「男女川(みなのがわ)」やフルーティーな味と香りが人気の「すてら」で知られ、全国新酒鑑評会金賞やロサンゼルス国際ワイン・スピリッツコンペティション最優秀金賞など、国内外で多数受賞歴のある老舗蔵。
そして9割が地元で消費されるという浦里酒造店(つくば市吉沼)の「霧筑波」は、長年つくば市民に愛され続ける銘酒。小川酵母の酒造りを追求した新ブランド「浦里」も地域で評判となっています。
全国各地の日本酒を知る須藤さんから見たつくばの地酒はどんな特徴があるのか、伺ってみました。
「地元市場のニーズに合わせて、高品質の酒を造っている割合が極めて高い印象です。浦里酒造店さんは全体的にすっきりキレイなお酒で、稲葉酒造さんは女性杜氏らしい品のいい香りでしなやかな味。それぞれ際立つ個性があり、転勤族の方々、地域に根付いて暮らしている方々どちらにも好評のロングセラー商品ですよ」。
そんな高品質な地酒を、もっと大勢の地域の人々に親しんでほしいとスタートさせたのが酒蔵ツーリズム。年1回、市内の酒蔵をめぐる「くらくら散歩」を主宰し、地酒文化を広める草の根活動を実施しています。
「沖縄で飲む泡盛が格別に美味しいように、地酒はその地で飲むのが一番。日本の蔵元は見学に消極的なのですが、どんどんやるべき。蔵元がもっと来てもらう努力をすれば、飲食店も地元の酒を地元で美味しく味わうことを意識する。ひいては地元の人が地酒愛を深めていくことにもつながるのです」と須藤さん。
2017年に構造改革特区「つくばワイン・フルーツ酒特区」の認定によってつくばワインが続々と誕生していることから、今後は市内のワインツーリズムも企画したいと考えているそうです。
【つくばワインで地域の新たな魅力づくりを】
小規模なワインづくりができる構造改革特区に認定されたつくば市では、異業種からワイン醸造にチャレンジする新規参入者が相次いでいます。そのため美酒堂では「Tsukuba Vineyard(つくばヴィンヤード)」と「Bee’s Knees Vineyards(ビーズニーズヴィンヤーズ)」のワインを販売して、地域の魅力づくりやワイン醸造家の育成支援に貢献しているのです。
「つくばらしい新たな特産物が誕生し、これからが楽しみ。どちらの醸造家も本職が研究者なので、勉強熱心で情熱的。つくば好きな人がつくば産のブドウで造ったこだわりのワインです。Tsukuba Vineyardはプティマンサンやマスカット・ベーリーAなど野性的な品種を色々試している段階で、複雑な味わいが魅力。Bee’s Knees Vineyardsはなるべく人の手を加えず、素材の味わいを引き立たせた自然派ワイン。その一本一本のストーリーも伝えて、後押ししたいと思います」
やはり地酒と言えば、地元の食とのマリアージュが欠かせません。須藤さんは普段、どんなつくばの食と合わせて堪能しているのかたずねると、「筑波ハム(つくば市学園の森)のソーセージやベーコン、チーズが、つくば産のワイン、日本酒と相性抜群。是非、多くの方に味わって貰いたいです」とおすすめしてくれました。
美酒堂はつくばの蔵元と同様に、地域のお客さま第一主義。
「手に入らない希少な酒ばかりを取り揃えるのではなく、質の良い美味しいお酒を提供していきたい。固定客とのつながりや地産地消をこれからも大切にしていきたいです」と須藤さんは意気込みを語ります。お店でスタッフとの会話を楽しみながらこれだ!という一本の地酒を見つけてみてはいかがでしょうか?
大切な人への贈り物、頑張った自分へのご褒美、誕生日や結婚記念日の乾杯、何でもない日の息抜きに…。日常、門出、節目のシーンを地酒とともに。
地酒専門店 スドウ酒店
TEL:029-875-8479
つくば市谷田部2985-2
営業時間:10:00~20:00
定休日:無休
https://ibanavi.net/shop/12917/
地酒本舗 美酒堂 イーアスつくば店
TEL:029-893-2479
つくば市下平塚5-19 イーアスつくば1F
営業時間:10:00~21:00
定休日:無休
https://ibanavi.net/shop/12921/
地酒本舗 美酒堂 AEONつくば店
TEL:029-846-1979
つくば市稲岡66-1 イオンつくば1F
営業時間:10:00~21:00
定休日:無休
https://ibanavi.net/shop/12922/
美酒堂 研究学園店
TEL:029-875-8479
つくば市研究学園4-2-9
営業時間:10:00~21:00
定休日:無休
https://ibanavi.net/shop/12920/