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身体に、心に、地球に優しい良質な有機野菜/有機農園モアーク 橋澤幸治さん

# 育てる人(農家)

毎日の食卓に欠かせない野菜。味だけでなく、身体にも、環境にも優しい野菜にこだわっている市内生産者「有機農園モアーク」を訪ねました。モアークの骨子は、遠く離れた南国パラオ共和国でも有機栽培を成功させた伝統草農法。国内外に有機農業を広めたいという願いの下、高品質な野菜を県内外に届ける同社の現場や取り組みについて紹介します。

【モアークの有機野菜】

農業法人盛田アグリカルチャーリサーチセンターが運営する有機農園モアーク。本当に良いものは自然に近いもの「人と仲良く自然と仲良く」という理念のもと、有機農業を始めたのが20年前。現在の農園の作付面積はおよそ8ヘクタール、うちハウス栽培は100棟5ヘクタール、露地栽培は3ヘクタールで葉物や根菜を中心に作付けしています。中でも創業当時から今まで変わらぬ主力はベビーリーフ。ベビーリーフはその名の通り葉野菜の若い葉を摘み取ってミックスしたものの総称で、サラダや付け合わせなどに大活躍。都内を中心に百貨店や高級スーパーでの取り扱いが多いほか「レストランのシェフにも評判がよく、イタリアンやフレンチ、一流ホテル、結婚式場などと外食産業でも広く使っていただいています」と、同社の生産部長を務める橋澤さん。高い評価を受けている理由として、「モアークのベビーリーフは味が濃く、またひとつひとつの葉が大きく肉厚で比較的日持ちも長いんです」とも話します。それを実現させているのが、モアークが提唱する「伝統草農法」による有機栽培です。
そもそも有機栽培とは本来、農林水産省の定める「有機JAS規格」を満たし、認定を受けなければ称することはできません。その条件はとても厳しく、主なものとしては「2年(多年生の作物においては3年)以上、禁止化学合成農薬や化学肥料を使わずに栽培すること」、「肥料には植物や動物性、天然の素材を使用すること」、「栽培、収穫、加工、出荷の過程において、禁じられた薬剤や添加剤などを使用しないこと」、「周辺から農薬等が飛んでくるのを防ぐために処置を施すこと」(※モアークオンラインショップより引用)などといった細かな遵守事項があり、それをきちんと満たしているかどうか実地検査も毎年受けなければいけません。有機JASの認定を得るためには時間も手間も膨大にかかるため、認証農園は増えているもののまだまだ多くはありません。また、有機JAS認定生産者といってもその手法はそれぞれ。実際は有機=無農薬ではなく、JASが認定している農薬については使用を認められています。また、堆肥の種類も基準をきちんと満たしていれば動物性であれ、植物性であれ良いのです。モアークでは、単に有機JAS認定を受けたというだけでなく、有機JAS以上の安全性を追求しています。さらに野菜の見た目だけでなく野菜自体の品質にもこだわり、「栄養価が高く、味の良い、安全で安心な有機野菜」という独自基準を満たす商品を届けるべく、日々手間ひま惜しまず野菜づくりを行っています。

市内ではスペイン料理レストランCambio(カンビオ)で、モアークのベビーリーフを使ったサラダを提供。根菜など一部商品は「つくば陣屋」で販売。

【“三方よし”の伝統草農法】

モアークの高品質有機野菜をつくる「伝統草農法」とはどのようなものなのでしょうか。「伝統草農法は、その名の通り草を主原料として作る堆肥を利用した農法です。これは、世界各地で、その土地その土地にある草を使って土づくりをおこなうずっと昔から行われてきたもの。歴史に裏打ちされた農法に学んだものです。この堆肥づくりがモアークにとって何より大切で、毎年、初夏の頃から一年分の草堆肥づくりを始めるのですが、完全に発酵して使えるようになるまでは最低でも半年かかります」と橋澤さん。市販の肥料を買って使えば、手間も苦労もありません。ですが、モアークでは手間ひまを費やしてやっと完成するこの草堆肥に強いこだわりを持っています。
草堆肥の主な材料になるのは農園のほど近くを流れる小貝川の川原に生える雑草です。国土交通省が管理する一級河川の堤防では、法律上の規制もあり農薬や化学肥料の散布を行っていないため有機栽培にも適しているそう。河川事務所が定期的に刈り取り、お金をかけて処分されていた雑草を毎年100トン単位で譲り受けているといいます。「川辺に生える草は、ミネラル分も含まれているので栄養分が豊富。堆肥づくりにはもってこいなんです。有効活用になり、美味しい野菜も出来て、草堆肥は良いことづくしです」と笑顔を見せる橋澤さん。農園敷地内にある堆肥場を見せていただくと、草堆肥の山からは白い湯気が立ち上っています。「ゴミなどを取り除いた草に米ぬかなどの材料を合わせて、定期的に切りかえして空気を入れながら土着菌の力でゆっくり発酵させていきます。そうすると、70~80度にまで温度が上がるんですよ。雑草の種や病害虫を死滅させる働きもあります」(橋澤さん)。手で触れてみると、ほんのりと温かい熱を感じます。また、家畜のふんなどを主原料としていないため、においも出ません。
また、草堆肥を使った土で育てることで成長スピードが緩やかになる分、葉物は厚みが出て、味も食感もしっかりとした野菜が出来るのだとか。作物を効率よく成長させることを目的とした、化学肥料や農薬を使う「慣行栽培」に比べ、草堆肥によりゆっくりと時間をかけて成長した野菜は味も栄養もすみずみまで行き渡ります。太く育った力強い葉脈を見ればその違いは一目瞭然。もちろん、無農薬で野菜を元気に育てることが出来ることも、草堆肥の利点です。
植物に必要な栄養を植物から与える「自然循環型」の農業は、環境にも優しく、消費者は美味しい野菜を食べて嬉しくなれる。皆により良い形と言えるでしょう。

モアークのスタッフはまず草堆肥の作り方と作業の手順を学び、ノウハウを共有しているそう。野菜づくりのファーストステップとなる重要な仕事。

【野菜本来の味を知る】

現在、農園の生産管理の責任者を務める橋澤さんは入社からもうすぐ10年になるといいます。聞けば、若い頃には青年海外協力隊に参加してボリビアへ行っていたなど、個性的な経歴の持ち主。モアークに入社したきっかけは、「就農相談会に参加した際に、出展していたブースに立ち寄ったのがきっかけでした。多品目の有機栽培に、草堆肥、パラオでの実績と、聞いた内容が面白いものばかりで興味を惹かれました。ですが、入社の一番の決め手になったのは、その時食べさせてもらったトマトの味。それがすごく美味しかったんです!甘いだけじゃなくて、酸味もあって、そのバランスと旨味が絶妙で。味の濃さに衝撃を受けました」と当時を思い出す橋澤さん。自身も感動した「本当の野菜の味」を多くの人に知ってもらいたいと、日々尽力しています。
お話を伺いながら農園を案内してもらう中で、ちょうど収穫したばかりのニンジンが運ばれている風景に出会うと「良かったらこれを食べてみてください」と試食させていただけることになりました。濃いオレンジ色のニンジンを生のままかじってみれば、引き締まりみずみずしい食感。驚くほどの甘さが口の中に広がります。ニンジン独特の香りも強く、なるほど確かに濃厚な味を堪能することが出来ました。加工品部門ではそんな有機ニンジンを使った無添加ジュースも作っています。
良いことを挙げればキリがない有機農業ですが、その実、栽培面では雑草や害虫、病気対策といった課題が常に付きまとうもの。また、慣行栽培よりも効率は悪いため、常に向上心を持って新しい分野に挑戦していかなければならないとも橋澤さんは話します。
「つくばは大商業圏である都内からのアクセスも良く、有機野菜農家にとっては立地が良い場所。また、つくばの土は草堆肥ともなじみやすく相性が良いので、モアークにとっては更に適地です。モアークの理念には、有機農業を広め、もっと有機農業者が増えていってほしいという願いがあります。つくばでも広がるといいですね」(橋澤さん)。

モアーク農園で採れたてのニンジン。ニンジン本来の魅力を十二分に楽しめる、濃厚な風味です。

自然から生まれ、自然に還る伝統草農法で、つくばの野菜の価値を変える。

有機農園モアーク(農業法人盛田アグリカルチャーリサーチセンター)
TEL:029-848-1550
つくば市上郷1108-2

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