Farm to Table つくばについて 地産地消 美味しいつくば産 特集 編集部コラム

みんなが「楽しい場所」をつくるワイン/つくばヴィンヤード 高橋学さん

# 醸す人(地酒)

2017年12月末に国から認定された「つくばワイン・フルーツ酒特区」。その制度を活用した、初めての個人経営ワイナリーが誕生しました。ぶどう畑の中に現れたのは、地域の名を冠する「栗原醸造所・つくばヴィンヤード」の看板が掲げられた真新しい建物。つくば市で「美味しい、新鮮な、そしてデイリーなワイン」の提供を志し、2014年からワイン用ぶどうを育ててきたつくばヴィンヤードの高橋さんにお話を聞きました。

【定年後の生業として選んだワインづくり】

つくばヴィンヤードの代表を務める高橋学さんは、北海道猿払村出身。宗谷岬のある稚内市に隣接し、「日本最北の村」ともいわれる場所です。「猿払村はホタテの養殖がとても盛んなところなんです。私は8人兄弟の7番目で大学での研究のためにこちらへやってきて、以来約40年つくば市とその周辺で暮らしています」と高橋さん。博士の学位を習得した後、つくば市内で研究職に就いた高橋さんは、2016年に定年退職するまで産業技術総合研究所を勤め上げました。「専門は、岩石や岩盤に関わる分野です。定年後も継続雇用で勤めを続けてきましたが、ちょうど今年(2021年)3月に雇用期間が満了です。それからは、ワインづくり1本の人生になりますね」。
つくばの地でワイナリーをおこす起点になったのは、55歳の頃に漫然と模索し始めた定年後の生業づくり。たまたま北海道へ帰郷した際に余市のぶどう畑とワイナリーを目にした高橋さんは「自分でぶどうを育てて、それでワインを作って、晩酌できたら幸せだなぁ」と思ったといいます。高橋さんに夢を見せたそのワイナリーは、個人経営の小さな農園ながら非常に高い人気を誇るドメーヌ・タカヒコ。オーナーさんと話すうち、ワイン作りの魅力とその人柄に惹かれ「自分でもできるかもしれない」と前向きに一念発起した高橋さん。まずはぶどう栽培からと早速つくば市役所を新規就農相談のために訪ねたところ、運良く栗原に70アールの農地を借りることが出来たといいます。「その土地が現在の第一農場です。耕作放棄地だったところを再生した土地で、相談に行ったタイミングも良かったのでトントン拍子に進みました」。その後、栗原地区の土地を借り受けながら農場を2.3ヘクタールまで広げ、2017年からは収穫したぶどうで醸造を開始。当初は筑西市の来福酒造株式会社で委託醸造していましたが、2020年8月果実酒製造免許を取得し、栗原醸造所が完成しました。
研究所勤務の傍ら、ほぼ独学でぶどう栽培をスタートしてから早6年超。高橋さんは、ついに自らの夢を実現させたのです。

「90歳までは自分の好きなことをして過ごしたい」と高橋さん。前向きにのめり込んでいく性格も手伝って、ワインづくりに傾倒

【つくばですくすく育つワイン用ぶどう】

元々「ワイン党というわけではなく、お酒は何でも好きでした。今飲むのはワインとビールですが」と笑う高橋さん。農場を得て最初に植えたぶどうは「プティマンサン」という品種。フランス南西部原産で、日本では当時知られざる品種でしたが「自分で飲んでみた中で美味しいと思ったものを選んだ」のだそうです。「プティマンサンは粒が小さく収穫できる量が少ないのですが、すごく酒質が良いワインが出来ます。近年、日本でも人気が出てきた品種なんです」(高橋さん)。育成品種は15種まで増えましたが、中でもプティマンサンで醸すものはつくばヴィンヤードワインの中でもファンが多い人気の一本です。
ぶどうの栽培地として適しているといわれるのは、水はけが良く風通しの良い場所。とはいえ日本では、北は北海道から南は沖縄まで山ぶどうが自生していることからも分かるとおり、ぶどうの栽培自体は国内どこでも出来るといえます。高橋さんは数多の品種の中からワイン用として良いものを主力として栽培していますが、中でもこの土地に合っているぶどうは「プティマンサンも良いですが、日本で新しく作られた“モンドブリエ”など、酸がきちんと残るぶどうが採れます。キレの良い酸がしっかりあるのはこの土地の良さではないでしょうか」と話してくれました。ワインの風味にとって、酸は重要な要素。フレッシュでフルーティな口当たり、心地の良いキレと余韻には酸が欠かせません。ワインが食事の引き立て役といわれるのも酸があってこそ。つくばで醸したワインは、つくばの食材の美味しい料理をより美味しく感じさせてくれるに違いありません。

ぶどう畑の向こうに筑波山、宝篋山が広がる雄大な風景と自分で醸したワイン…憧れの具現化です

【つくば市民に愛される、デイリーなワインを】

ぶどう栽培の規模を徐々に広げながら、ワイナリー建設の準備を着々と進めていった高橋さん。描いた夢からスタートした将来設計は簡単ではありませんでしたが、つくば暮らしの友人や同好の士の助けがあってここまで実現できたといいます。「子どものPTAの仲間をはじめ、たくさんの方がぶどう畑の作業を楽しみながら手伝ってくれています。自分ひとりではとてもやれません。栗原醸造所完成後初めての醸造も、牛久市のワイナリーの方に教えてもらいました」と高橋さん。2020年は7月の長雨など気候条件が悪かったこともあり、ぶどうが通常の約半分の収量に落ち込むなど万全とはいえないスタートでしたが、初リリースは自身でも納得の出来栄え。11月に「Kurihara(ロゼ)」を発売、続けて12月に発売の「Tsukuba series(白、赤)」はいずれも好評。個人ワイナリーはコスト面の問題でどうしても価格が高くなってしまいがちな中、「出来るだけお手頃な価格で、地元の人にも手にとってもらいやすいデイリーなワインを」とこだわっているのもつくばヴィンヤードの特徴です。
ワイン作りを通して、更なる可能性が開けていくと展望する高橋さん。「つくば市は都内からすぐ来られ、街中から約5分でこのような緑豊かな場所がある。研究機関をはじめ色々なものが揃い、多種多様な情報を間近で見て、知ることが出来る。うちの他にTsukuba Winery(つくばワイナリー)さんやBee’s Knees Vineyards(ビーズニーズヴィンヤーズ)さんもワインをリリースしておりバリエーションが増えたことで、“つくばのワインがあります!”と自信を持って言えるようになりました。そんな実績や市のバックアップもあって、つくばでぶどう・ワインを作りたいと目指す新規就農者も増えてきています。そういった人達を応援していきたいですし、あと5年・10年したらここが一大ワイン産地として形成される可能性だってある」。
つくば市だからこそ叶う夢。近い将来、つくば市は茨城のワイン産業を担う一翼となることでしょう。

ぶどう畑の草刈り風景。農場作業のお手伝いはどなたでも随時大歓迎!興味のある方は、HPから問い合わせを

美味しく、嬉しい、笑顔をつくるワインをつくばから。

つくばヴィンヤード
TEL: 090-2429-5319
つくば市栗原愛染2973
※ワイナリーでの販売、営業についてはお問い合わせください
https://tsukuba-vineyard.sakura.ne.jp/blog/

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