数多くの研究機関が置かれているつくば市。最先端の科学技術が集まっており、農業の分野でも研究開発が進められています。つくば市で誕生した新品種も多く、その中に「ユメシホウ」という小麦があります。「関東地域のパン用小麦という夢が四方に広がることを願って」命名されたこの地産小麦を使って、美味しいたこ焼きを提供するお店・おおきやを取材しました。
【美味しい理由が説明できない商品は売らない!】
常磐自動車道谷田部ICすぐ近く、筑波学園病院の目の前にあるたこ焼き屋さん。それがつくばたこ焼きおおきやです。店主の大木範彦さんは千葉県生まれの茨城県育ち。会社員として働く中、何かやりたいことを探したいと職場を退社し、たこ焼き屋の開業を決意します。そして大木さんはたこ焼きの本場大阪へ出かけ、茨城では食べたことがないほど美味しいたこ焼きと出会います。そこで大木さんは大阪での修行を決意。独立開業を夢に修行を重ねること5年でつくば市へ戻ってきました。2000年の創業で、当初はお出汁のきいた関西風のたこ焼きが人気を集め、経営もどんどん右肩上がりになっていったといいます。経営も波に乗る中、商工会から連絡を受けます。その内容は「つくば産の小麦ユメシホウを使ってくれないか?」というものでした。パンの街つくばで人気を集めたユメシホウ。強力粉に分類されているため、製パンや製菓に使われることが期待されていました。そのため、この話を受けた大木さんは「強力粉はたこ焼きに向かないから無理だよ…」とこの話を断ることに。しかし、とりあえず試してみてよとサンプルを手渡され、半信半疑でたこ焼きを作ってみることにしました。ユメシホウは外国産の小麦に比べると、どうしてもタンパク質含有量が低いため実際には製パンには難しいという意見もありました。大木さんも試してみると、ユメシホウは小麦の甘味と旨味が強いことに気づきます。それから数度の試作を繰り返し、地粉を使ったたこ焼きを完成させることができました。小麦の中のグルテンをあまり結着させないように塩分量も調整し、おおきや独特のトロ~リとしたたこ焼きを実現させたのです。
大木さんは、おおきやの商品について次のようにいいます。「自分が作って売るものは、それぞれがしっかりとストーリーを持っていてそれをお客さんにしっかり説明できなくてはいけないんだ」と…。おおきやのたこ焼きが美味しい理由を聞かれたときに「つくば産の国産小麦ユメシホウを使っているからなんです」と答えるように、全ての商品に理由がなくてはいけないと!!これをきっかけに大木さんはメニューの中から、こだわりがしっかりしていない商品を排除。しっかりと素材をはじめとした美味しい理由を説明できるものだけを残しました。移動販売車でたこ焼きを売りに歩くと、市外では「ユメシホウってなんですか?」と尋ねられることがあるそうです。そんなとき大木さんは「国産の小麦でたこ焼きにすると甘味があって美味しいんですよ」と答えています。
【人に感謝され、喜んでもらえるたこ焼き作り!!】
次に大木さんは、たこ焼きと共におおきやの看板メニューである焼きそばでもユメシホウが使えないかと画策します。そこで頼ったのが地元素材を取り入れた乾麺製造に力を入れている麺工房あおきや(つくばみらい市)。最初こそ焼きそば用の生麺の製造に難色をしめされましたが、同店から「大木さん、ユメシホウで焼きそばの麺を作ることにしたよ!!」との連絡が。念願かなっておおきやの2枚看板であるたこ焼きと焼きそばの両方がユメシホウになりました。ユメシホウを手に入れた大木さんはさらに自らのたこ焼きを進化させていきます。焼き立てのたこ焼きを提供することにこだわり、外側はカリッと焼き、トロッとした中身は好みによりトロッと具合を選べるように…。ふわふわ、ちょいカリッ、カリカリと名付けられた焼き分けでおおきやの人気はさらにうなぎのぼりになっていきました。
更に、ユメシホウを使うことは経営面でも利点があったと大木さんは語ります。「いま、海外の情勢などの影響で輸入小麦の値段が乱高下していますが、うちはつくば産の小麦だから価格変動が少なくてすんでいます。今となっては、輸入小麦と価格もそんなに変わらず、安定した仕入れができているのも良かったポイントですね」。大木さんが地元の食材にこだわる理由はそれ以外にもあります。「地元の食材を使って商品を作れば、その生産者さんが喜んでくれるじゃないですか。農家さんもうちに食べにきてくれて、笑顔で帰ってくれる。それって凄いことだと思いませんか?誰かに喜んでもらえれば、僕も嬉しい。だから僕は知り合いの農家さんから直接いろいろ仕入れさせてもらっているんです」と大木さんは教えてくれました。そんな大木さんの想いがつまった商品のひとつにソーセージがあります。実はこのソーセージはつくば市内「ぴあらハム」の特注品なのです。ぴあらハムの久松社長とは高校の同級生だったという大木さん。ある日、街中で再開を果たします。お互い「いまなにやってるの?」という会話から、「だったらうちで焼いて売るからソーセージ作ってよ!!」とその場で依頼。数度の試作を重ねて完成したのがおおきやのソーセージです。これも地元の食材で、地元の消費者や生産者が喜んでくれると信じる大木さんならではエピソードです。
【つくば市の野菜をもっと活用していきたい!!】
そんな大木さんが次に目指すのはつくば市産の野菜をもっと使った新商品の開発だといいます。いま、大木さんが目指しているのは地元産野菜たっぷりのスープとたこ焼きのセット。季節の野菜をたっぷり使ったスープと、その上に数粒のたこ焼きをセットにしたものを開発したいと話してくれました。「いまうちのたこ焼きは6個入りなんですが、ちょっと小腹が空いたなってぐらいだと量が多いんですよね。だからスープと一緒に2個とか3個とかセットにして販売したいなと思っています。そしてスープなら野菜の種類は問わずに使えるじゃないですか」と大木さん。季節ごとに多様な野菜を生産している農家が多いつくば市にフィットしそうなアイデアです。そしてつくば観光コンベンション協会が取り組む福来グルメにも興味があるのだと大木さん。福来やきそばや、福来たこ焼き…そのアイデアは尽きることがありません。また、大木さんは小ねぎの生産をしてくれる農家も探しているといいます。「僕のネギたこ焼きはどっさりと小ねぎが乗るのが特徴なんですが、関東ではなかなか美味しい小ねぎを入手するのは難しいんでよね。でも、地元で作ってくれる農家さんがいるならぜひ購入させてもらいたいですね」と大木さん。
大阪から本場の味を伝えたおおきや。それがつくば産小麦ユメシホウと出会い、その味はつくばでしか食べられない地元の味へとなっていきました。小麦を変えるのは水分量や材料の分量を全て見直さなくてはいけない手間のかかる作業。しかし、その手間をかけてでも地元の味へと昇華することがで、美味しいたこ焼きの理由ができ、それがストーリーとして市民に受け入れられました。本場大阪にも負けないつくばたこ焼きおおきやの味。皆さんもぜひ一度体感してみてください。
つくばたこ焼き おおきや
住所 つくば市上横場2365-8
営業時間 11:00~20:00(19:30LO)
定休日 木曜日 ※土日祝日臨時休業の場合あり
TEL 029-811-6275
https://ibanavi.net/shop/2105/